Music Vocaloid

【MEIKO10周年企画】 斜陽の楽園 Graduation00:『序章』

投稿日:

haikei

Novel+Music+Meikoの新企画

Novel/illustration 骨董屋佐竹
MEIKO/Music 涼風涼雨

斜陽の楽園の第2弾、序章になります。今回も引き込まれるノベル、美しい音楽をお楽しみください。

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Graduation00:『序章』

カロリと軽やかな音色を響かせて入るその店の中は、磨き上げられとろりとした質感の木材のような情報でくみ上げられている。
同質の素材を分厚く切った机椅子が等間隔に並び、椅子には人、机には淹れ立ての飲み物。
ぐるりにはカウンター、寄りかかりながら葉巻を嗜む『紳士』も『存在』する。
昼の時分は子供の姿もあり、奥に存在するステージに視線を集める。
入店した『彼』は給仕に示された店の端にある椅子に座り、ステージに集まる人々を傍観した。
彼らはそれぞれ流行の服装に身を包み、誰かが出てくるのを心待ちにしている様子だ。
今回の標的は……。
『彼』は懐から紙を取り出し、自然な様子でざっと流し見た。

その途端、周囲の色トーンが落ち……一人の人間の姿だけが色も鮮明に浮き彫りにされる。
彼は紙の上に指を走らせ、一枚しか無い筈のその紙を繰った。
微かに、分からない程度に光った彼の目には、鮮明に写っている人間以外はモノ・トーンに見える。
紙の上にある印刷されたはずのエンボス文字は、指の動きに合わせて縦横無尽に動き……やがて画像に行き当たった。

画像は……小さな女の子だ。

途端、ワッという歓声と共に彼の意識は色を取り戻す。
今まで浮かび上がっていたはずの女の子の姿が、あっさりと群衆に紛れた。
彼は舞台へと視線を向けると、同じように興奮のまま騒ぐ群衆の視線の先に。

深い赤のビロウドと煌びやかなスパンコールに彩られ。
鈍く銀色に光る拡声器を従えた美事な『赤の女王』がやってくる。
女王は豪奢な微笑みを浮かべ、息を軽く吸い込んで。
心地良いピアノを主体とした伴奏を従えて空気をふるわせた。

乾いた空 同じ明日
ここはみんなの居場所じゃないの

マイナスから逃げ出すように
憧れた未来を旅立つ歌

平等を願うよりも
前に進みなさい
平等に怒るよりも
足掻き続けなさい

汚れた海 疲れる明日
だけど世界は悪くは無いの

キレイには生きられないよ
傘の無い雨に
立ち尽くすより駆けなさい
君を必要とする人がいる、ほら

斜陽の楽園【The paradise of depressed】
骨董屋佐竹

「見てくれたのね」

歌が終わり、暫くして。
彼が洒落た器に淹れられた琥珀色の珈琲を摂取していると、男の前にスーツ姿に着替えた『女王』が鎮座した。
彼は自然に顔を上げると軽く手を上げる。

「依頼の件、調べてくれた?」

彼は無言で手に持った資料を差し出した。

『彼女』は歌姫。そしてこの世界を歌で司る『女王』。
別にそれ以上でも以下でも無い。
ただ、特殊な依頼を聞いているだけの。

そしてそれが彼と彼女の縁でもある。
彼は『世界』を維持するために従事するゲームキーパーの一人。
そう、この目の前に広がる『世界』は、虚構(ヴァーチャル・リアリティ)だ。
作られた当初からネット上に存在するこの世界は、特殊な存在だった。
作った会社はごく普通の企業ではあるが、顧客は老人ホームや重病人を収容するような医療施設。
ユーザーは、脳は正常に動くが障害や衰弱で動くことが出来ない人々。
そんな彼らが、この世界では自由に動き、話し、楽しむことが出来る。
動くことが出来ない精神的なストレスからの解放と、アバターを動かすことにより脳の活性化を促す。
このゲーム……世界は。
彼らの意識とリンクさせることにより身体の感覚を持続させるための巨大なリハビリテーション施設なのだ。

事実この世界に入り、ストレスが軽減され症状が緩和した者。
脳の感覚が維持されたおかげで体が修復されてからのリハビリが順調に進んだ者も数多い。

限度はあるが時分の脳の信号に併せて体が動く感覚を維持することで回復自体が早くなるという事実もあり、このゲームの利用者も徐々に増加していた。
資料を操る女王に、男は言う。

「今回は若いな。それに送り出すと言っても『喜ばしい事』のようだ」
医療関係から選ばれた人間が集うこの世界には、誰にでも適用される一つ大きな特典が存在する。
生きていれば必ず訪れる、この『世界』自体から去る時に、この『歌姫』に『自分のための曲』を歌って送り出して貰えるのだ。

体の修復が終わり新たに現世へ戻る人々には『喜びの歌』を。
この世を去り、新たな生へと向かう人々には『旅立ちの歌』を。

この歌姫が、往く者のために歌ってくれる。
彼女はAIであり、この世界における最大の『イベント』なのだ。

「じゃあ、明るい曲が良いわね」

彼女は、視線を資料から上げてその『ターゲット』を客の中に見つけ、赤い唇の端をきゅっとつり上げた。
だが、『女王』の視線の先にいるテーブルについた少女は、何故か喜ばしい旅立ちの前なのに目に涙まで浮かべてぶすくれている。

何故、不機嫌なのだろう。
何か、この世界から出たくない理由でもあるのだろうか。

『女王』はその様子にふと思案して、資料を渡してくれた『彼』に向き直った。

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「聞かせてくれる? 彼女の物語を……」

この世界から出るのが不安なのならば、あの少女が元の世界に怯える理由を知らなければ。

資料を渡した『彼』は、『女王』が歌を作るためのサポーターだ。
『女王』は『彼』の情報を元に一番本人に合った歌をプログラムする。
その理由は、この世界を離れる者達が前を向いて進むため。

「わかった」

歌姫は頷き、軽く微笑んで『彼』が語る『物語』に耳を傾けた……。

【Graduation00:『斜陽の楽園』 終】

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